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人狼の話です

「利敵行為」って何?②

前回はこちら
「利敵行為」って何?① - リサイクルショップ

利敵行為の分類

 さて、前回の記事では、辞書的な意味での利敵行為をそのまま禁止することは、人狼ゲームでは難しいという結論に至りました。
 しかし、たとえば「人狼が誰が人狼であるか公表する行為」であったり「本物の占い師が偽の結果をゲーム終了まで撤回しない行為」はできれば禁止したいものです。
 まず最初に思いつくのは「ある特定の行為を禁止する」というものです。前の段落で挙げた例は基本的にどんな状況でも自陣営の不利益につながるよう思えますから、そのまま禁止して良いように思えます。
 ここで一旦ルールを取り出しておきましょう。

  • 前後の状況によらず自身または自陣営の不利益になることが明らかな行為については、これを禁止する。

 しかし、それだけでは前後の状況によってその是非が異なる行動についてはカバーできないように思います。前の記事で挙げた例から「状況」と呼べそうなもの;Aさんの「推測」と「意図」、そして「結果」を取り除いてみましょう。

(0)
 狂人のAさんは占い師を騙り、Bさんが人狼であると告発した。

 前回結論づけたように、その行為がもたらした結果からそれが利敵行為であるかどうか判断することは、結果論的にしか行えません。また、仮にこの行為が自陣営の敗北を誘起したとしても、Aさんはそれを意図していたわけでも、そうなるだろうと思っていたわけでもありません。
 では、この行為はどのような状況においても禁止しなくてよいのでしょうか。ここで、以下の3つの例について考えてみます。

(5)
 狂人のAさんは占い師を騙り、Bさんが人狼だろうと思いながら、人狼陣営を敗北させることを目的として人狼であると告発した。

(6)
 狂人のAさんは占い師を騙り、Bさんが人狼だろうと思いながら、その行為の結果人狼陣営が敗北するだろうと推測しつつも、そうなってもいいと考えて人狼であると告発した。

(7)
 狂人のAさんは占い師を騙り、Bさんが人狼だろうと思いながら、その行為の結果人狼陣営が敗北するかもしれないと推測しつつも、そうならないだろうと考えて人狼であると告発した。

 これらは(0)に特定の状況(Aさんの意図または推測)を付け加えたものです*1
 さて、直感的には、その結果によらず(5)を禁止しなくてはならないように思えますし、(6)もできれば禁止したい行為のような気がします。(7)もやってほしくはありませんが、禁止するべきか(できるか)は悩ましいです。

確定的故意を伴う利敵行為
 (5)が問題となるのは「自陣営を敗北させる」という明確な意図がAさんの行為に付随しているからです*2。勝敗度外視で遊んでいるのでない限り、基本的に参加者は勝利を目的として行動する前提でなければゲームは成立しません。
 ゲームの成立に関わる部分ですから、ここからルールを取り出しても問題なさそうです。

  • 自身または自陣営に不利益を与える意図を伴う行為については、これを禁止する

 これを便宜的に確定的故意を伴う利敵行為と呼ぶことにします。

未必的故意を伴う利敵行為
 (6)の場合、Aさんは積極的に人狼陣営の不利益を意図したわけではなく、しかしそうなるだろうし、そうなってもいいと思って人狼候補の告発に踏み切っています。便宜的にこの心理状態を結果の認容と呼び、それを伴う利敵行為を未必的故意を伴う利敵行為と呼ぶことにします。
 (6)は禁止した方がいい行為ですが、なんだか(5)と同列に扱うのはへんな気もします。しかし、単に「禁止する」以上のものを設定できないのであれば仕方ありません。
 (5)と(6)をわざわざ分けた理由は「禁止」「許可」の二種類しか裁定を下せない場合、「意図」と「結果の認容」は区別できないことを示すためです。量刑を設定できるならば、(5)の方をより重い処罰にすべきだろうと思います。
 今回は二種類しか裁定できないものとしてルールを設定することにしますので、以下のように取り出します。

  • 自身または自陣営に不利益を与えることを推測しつつ、その結果の認容を伴う行為については、これを禁止する

過失
 (7)および(2)(4)は「自陣営に不利益を与えること」を意図したり、それを認容しているわけではありません。(6)と(7)の間にあるのは故意と過失の壁と呼ぶべきものです。
 過失とは「そうならないだろうと考えたが、そうなってしまった行為」あるいは「そうなる可能性をそもそも認識していなかったが、そうなってしまった行為」のことを指します。いずれにせよ「○○を禁止する」という強制力に乏しいローカルルールを想定している以上、行為者が自陣営の不利益になると推測していない、または認識していない行為を禁止するのは不可能であると思われます。
 ただし、重大な過失を行わないよう参加者がそれぞれ注意する必要はあるかなと思います。重大な過失とは、不利益をもたらすだろうと予想したり、またその可能性を認識するのが極めて容易な行為のことです。「極めて容易」のラインは人によって変わる気もしますが、とりあえずは初参加でもわかる程度を想定するのがいいのかなと思います。

まとめ

 長くなりましたが、利敵行為についてのこれまでの話をまとめると以下のようになります;

  • ある特定の行為が利敵行為であるとは、人狼ゲームの性質上、進行中に確定的な判断を下すことが難しい。
  • その前後の状況に関わらず自身または自陣営の不利益になることが明らかな行為については、その行為そのものが禁止される。
  • その前後の状況によって自身または自陣営の不利益になることが明らかでない行為については、行為者がその結果を意図して、または認容して行われる場合には禁止される。
  • その前後の状況によって自身または自陣営の不利益になることが明らかでない行為については、行為者がそうならないだろうと考えた、またはそうなる可能性を認識していない場合は禁止されない。
  • ただし、自身または自陣営の不利益になるだろうと推測すること、またはその可能性を認識することが極めて容易な行為については、これを行わないことが推奨される。

 なんだか例のごとく「それ当たり前じゃない?」ってことしか書きませんでしたが、とりあえずはこれを「利敵行為って何?」って話の着地点にしようと思います。

*1:注意して欲しいのは、(1)〜(4)のときAさんは「その行為の結果人狼陣営が不利になるかもしれないと推測」していないという点です。

*2:意図を持つことそのものが問題という意味ではありません。