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【ネタバレ注意】「アンドロイドは愛を知らない」(マダミス感想)

booth.pm

 5月11日にマーダーミステリー「アンドロイドは愛を知らない」をプレイした。GMは今日はさん、PLは私(ばにしゅ)に加え偽善さん、ふぃおらさん、しっぽさん、うみさん、ねむみさんの6名。近未来のアンドロイド研究所を舞台にしたクローズドサークルのシナリオだ。
 SFが好きな人ならタイトルから察せるだろうが、この作品はフィリップ・K・ディックアイザック・アシモフらのSF小説を元ネタに作られている。作中にはアシモフの「ロボット三原則」をもとにした「アンドロイド三原則」が登場し、人間とアンドロイドの判別を可能にする「フォークト・カンプフ検査法」はディックの「電気羊はアンドロイドの夢を見るか?」に登場する同名の検査法から引っ張ってきたものだ。ほかにも様々な古典名作SF作品のオマージュが登場し、作者の深い知識と愛が感じられた。
 私は昔からSFが好きで、中でもアシモフは特にお気に入りだった。頑固者の刑事イライジャ・ベイリと人間そっくりのロボット・R.ダニール・オリヴォーのコンビが難事件の解決に挑む「ロボット三部作」や、銀河帝国の衰亡から新たな帝国誕生までのスペクタクルを描く「ファウンデーション」シリーズは今でも本棚の最前列に収まっている。もちろんその隣にはディックやクラークが並ぶのだが。
 「アンドロイドは愛を知らない」では、さきに取り上げた「アンドロイド三原則」や「フォークト・カンプフ検査法」のモチーフが単なるイースター・エッグとしてではなく、シナリオの根幹を為す部分に据えられている。それはもうファンとしてはたまらない体験だった。まるで自分がベイリやデッカード(「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の主人公)になったかのような。マーダーミステリーは推理小説の登場人物になったような体験が魅力とよく言われるが、それがずっと昔から好きで好きで仕方なかった作品だったとしたらどう感じると思う?最高だよ。
 シナリオの見事さにもふれておきたい。終盤、それぞれが「愛」を告白しあいまさに大団円を迎えようかとしたその時、暴走したアンドロイドの大群が研究所を襲撃しようとしているとの報せが入る。このままでは1時間もしないうちに皆殺しだ。助かる方法はただ一つ。愛を知った三人のアンドロイドのうち誰か一人を犠牲にすること。PCたちは話し合いで犠牲者を決めなくてはならない。
 殺人事件パートで味わう緊張と、そこからのカタルシス謳歌していたPCたちは急転直下、絶望的な選択を強いられる。議論の時間はたった5分しかないのに、誰もまともに口を開くことができない。喉はからからに乾き、1分が永遠のように感じられる。それでも「話し合いで」「必ず」誰か一人を決めなくてはならないのだ。
 結局、この問題は誰か一人が名乗り出ることでしか解決しない。PCたちは心から誰にも死んでほしくないと願っているし、同時に死にたくないとも感じている。そういった葛藤を乗り越えてほかの全員を救うために名乗りを上げられるのはまさに最も深く「愛」を知っているアンドロイドといえるのではないだろうか。(今回の卓ではナッツが名乗り出たのですが、チヨコに向けて語った「ハルちゃんをお願いね」がエンディングへの流れとしてキレイすぎてめちゃくちゃエモかった。天才)
 そこから迎える結末も美しいの一言で、上質なSF小説を読み終えた後のような、ほんの少し苦みを帯びたさわやかさがあった。愛を知ったハルがわが身を投げうって人類を救う姿は名前の元ネタであるHAL9000(「2001年宇宙の旅」に登場する人工知能。「コンピュータの反乱」の原点といわれることもある)と鏡写しになるモチーフなのかなとも感じた。またハルはアンドロイドでもあるから、「電気羊」に登場するアンドロイドたちのイメージも背負っているのかもしれない。ハルは愛を知り、幸せだと言って最期を迎えた。ハルの背中の向こうに見える彼らにも幸せな結末を用意してあげたかったという作者の思いを感じるのは、深読みのし過ぎなのだろうか……。